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トッテナム ホットスパー (スパーズ)について語るブログ

スパーズの口座残高を想像してみた

 

 一体収入が無い状態でスパーズはどれだけ生活出来るのか?気になったので頑張って計算してみた。これは以前から言っていることだが、筆者は経営やファイナンスの専門家ではないので、色々勉強しながらやっているという事を考慮に入れて頂き、生暖かく見守って頂ければ幸いである。専門外の事について書く、しかも想像を含めながら計算する、というのは個人的にの抵抗があるので書くかどうか非常に迷ったが、気になる人も多い割に誰も書く人がいないので、あえてトライした。

前提

現在各クラブは収入が(ほぼ)無く貯金を切り崩して生活している、いわば失業状態。

よって「去年会長は£○○貰ってる」「去年代理人手数料に£○○払ったから金持ちなはず」等は全く無関係とは言わないがミスリーディング。それらは去年出て行ったお金であって、今手元にない金である。今、手元にどれだけお金があるのか?(キャッシュフロー)が問題。

収入、支出の正確な額やタイミングはクラブにしか分からないので正確な数字は知りようがない。よって今回の計算も想像に頼らざるを得ない箇所がある。ということは途中の計算が間違っている可能性があるということなので、「スパーズは〇月までなら持つらしいよ」と安易に引用・喧伝するのはご遠慮頂きたい。

 

スパーズの口座残高はいくら?

重要なところだけ書き起こすが、詳細は下表を見ていただきたい。

 

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まずは19年6月末時点の預金残高=£123m

ここから1年でどれだけ残高が増えたか考える。今シーズンの具体的な数字は分からない部分が多すぎるので、昨季の数字に調整を加えることで補完する。

まず昨季の営業利益=£101m

ここに諸々の調整を加えると、今季は-£73mの大赤字となる。シーズン破棄による収入減と移籍市場での赤字が主要因である。

言い方を換えるとシーズンがそのまま進んでいれば£10mの黒字で終えていたということになる。昨シーズンの莫大な利益を見ているので異常に少なく感じるが、移籍市場で大金を使ったことを踏まえ、2017以前の数字と比べるとそこまでおかしな話ではない。

 

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2012年以降の営業利益 

(https://financialfootballnews.com/tottenham-hotspurs-2018-finances-world-record-profits/)

 

そして

19年6月末時点の預金残高=£123m から 今季の損失-£67mを差し引くと

20年6月末時点の預金残高=£56mとなる。

これをスパーズの総人件費=£178mで割って*12ヵ月とすると、3.7という数字が出る。

これは20年6月末から収入無しで3.7ヵ月分の人件費は払える(試合中断をした3月から考えると6-7か月分)という意味である。つまり20年9-10月頃からスパーズは資金繰りで大きな問題(給与未払いや遅配等)を抱えそう、ということになる。

 

冒頭に書いたように、この数字は想像に基づく部分も多いし実際のキャッシュフローを考慮したものではない(移籍金が一括で支払われているとは限らない、等)。詳しい人が見れば途中の計算でおかしいところも多々あると思う。

とはいえ低人件費で堅実経営のバーンリーが8月頃まで、その他のプレミアのクラブは平均3カ月程度しか持たない(Talksport radio)、ということを考えるとそこまで見当外れな数字でもないと思う。

スタッフ減給/雇用維持スキーム利用は必要か?

上記より約6ヵ月分の総人件費は確保出来ており、またスタッフ給与は比較的少額と想像される。よって今すぐスタッフの減給や雇用維持スキーム利用が必要か?と言われたら、確かに必要ではないという結論になる。

資金繰りが厳しくなる9月や10月に申請するならともかく、「今」その程度の金額で言及するな/税金を使うなという現地サポの意見自体はまあ妥当かなとは思う。

しかし20%の減給を数カ月続ければ1ヵ月分くらいの給与を確保出来るのもまた事実である。いつ試合が再開出来るか分からない現状ではリスクを最小限にするため、と言われれば真っ向から否定してよいものか。経営が苦しくなって一番困るのは立場の弱いスタッフなのに?

リスク軽減の点は雇用維持スキーム利用もまた然り。また給与の負担者が政府になればスタッフは給与遅配や未払いを心配する必要がほぼ無くなるため、制度利用の一番の受益者はスタッフだろう。

選手会側が、経営者は浮いた費用を自分のポケットに入れようとしている!等とメディアキャンペーンをしているが流石に酷いというかちょっとpopulisticだなと思う。

 

結局何が一番辛いかというと、戦っている相手がコロナウイルスであって実際いつ試合を再開出来るか分からないという点である。例えば仮に6月頃には必ず再開出来る!と分かっていれば、クラブも今スタッフの減給や制度利用は不要だと考えるだろう。*1

現状はフットボール界全体の危機

スパーズは基本的に低人件費なのでまだ耐えられる方だが、放映権収入に頼りきって恒常的に大型補強したり高給を払ったりしているクラブはもっと早くに資金繰りが厳しくなる。何クラブも同時に倒産してしまっては洒落にならないので、そうなる前に無観客で試合を開催することになると思う。

しかし金が無いからと言って感染のリスクという大きな負担を選手やスタッフに一方的に背負わせるのも倫理的にどうなのか?もし再開した結果感染者が出ればすぐに再度中断となるだろうし、そこから再度再開するのは選手に相当な心理的負担がかかるはず。実際選手会側はクラブへの不信感を露わにしており、試合再開の議論も難航していると想像できる。

今必要なのは何か

端的に言うと、遅かれ早かれ「全員負け」の未来が待っている。その未来を避けるためには負担を広く薄く分担し、ワクチン開発成功など根本から現状を打破する要素が現れるのを待つべきだろう。選手達はそれぞれ寄付など社会貢献をしてくれてはいるものの、その高給はクラブ財政にとって非常に大きな負担となっているので、各クラブは選手の減給を強く求めるだろうし、受け入れるべきだと思う。勘違いしないでもらいたいのは、別に金持ちだから減給してもいいだろ!ということではなく「広く薄く」負担を分担すべき、という話である。減給を受け入れてクラブに財政的な余裕を与えることで試合再開日を遅らせれば、それだけ状況が改善する可能性も高まるわけであり結局は選手自身を守ることになるはずだ。

おまけ:Big pictureを見る

今回の問題は結局のところ何なんだ?と言われたら、「フットボールクラブはビジネス以上の何かである」と思いたい現地サポーターと「実際問題ビジネスなんだから合理的に動くのは当然」というクラブの認識の違いだろう。現地サポは「フットボールはただのビジネスじゃない」と思っているからこそ今回の決定によってクラブの矜持や誇りといったものが失われると危惧しており、一方のクラブは「そうはいっても悠長なこと言ってられる状況じゃないんやぞ」と平行線を辿るのだと思う。

筆者は現地在住ではないがサポーターであると同時に経営に興味がある人間でもあり、どちらの主張も一定程度理解出来るだけに難しい心情である。ただ至る結論は同じだとしても過程で間違った見方が多数出ているように思えたので、今回時間をかけて改めて検証したかった次第である。

*1:より給与の低いスタッフを減給にすることで、選手側との交渉でプレッシャーをかけるのが狙いだったと考えることも出来るが。