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トッテナム ホットスパー (スパーズ)について語るブログ

TOP4の牙城を崩したスパーズの経営戦略

こんなことをいつか呟いたところちょっと反応があったので、スパーズの経営戦略について、自分の解釈でもう少し詳しく掘り下げてみようと思います。

実は「スパーズの成功?トロフィーとったの?」という反応もあったので、まずは「成功」の定義から。経営戦略の内容に入る前に、一体レヴィ含む経営陣は何を成し遂げたいのかを理解する必要があります。

前提 ー「成功」の定義

辞書で「成功」の定義を調べると大体こんな感じー「物事を計画、目的通りに成し遂げること」大事なのは、他者の物差しを使って成功を測るのではなく、自らが立てた計画、目的を用いて測るというところ。ここを理解することがまず大事。

 

ではレヴィが描く計画、目的とは何か?端的に言うと「スパーズというクラブの競争力(competitiveness)を向上させること」より具体的には「スタジアム完成後、毎年CL出場権を獲得するレベルまで競争力を上げること」というのが当初の計画です。(タイトルからネタバレですね。)

 

???既にCL権は連続で獲得してるけど...?

 

と疑問に思った方もいると思います。まさしくその通りで、当初の計画よりも早く物事が進んでいます。ポチェがスパーズに就任した際の目標は、「4年で新スタジアムに移り、CLに出場することだった」とポチェ自身が明かしています。(下記参照)当初の計画を前倒しで進めているので、スパーズの現状は「成功」と言えるでしょう。www.standard.co.uk

 

タイトルを望むファン心理は理解できるものの、スパーズの財政力はPLで6位なので、現状「TOP4に入る」というのは適切な目標だと思います。実際この目標は既に達成できているので、上方修正して「タイトル獲得」とするのも良いですが、取れなかったからといってクラブ経営に問題が発生するわけではありません。

 

本題ー経営戦略概論

前置きが長くなりました。

「毎年CL出場権を獲得するレベルまで競争力を上げる」ために行われたスパーズの経営戦略をざっくりまとめると、以下のようになると思います。

 

➀売却時に市場価値が下がる/週給の高いベテランは見送り、若手中心にリクルートし、選手売却益はチームに再投資

②マッチデー収入、放映権収入等は設備投資(トレーニング施設)

③北米オセアニア、アジアでの市場開拓

 

➀まず重要なのは財政面とスポーツ面は切り離すことは出来ないということ。潤沢な資金があれば優秀な選手を獲得出来るし、優秀な選手の売却は高額な移籍金を伴うことになる。入口出口、双方の理由からリクルートは若手中心が合理的です。スパーズはシティやチェルシーと違って潤沢な資金があるわけではないので、高額な移籍金で高給取りの選手を獲得することは難しい。そして若い選手であれば週給が安いため、フィットしなくてもそこそこの金額で売却出来るのでリスクヘッジになるのです。

 

ポチェ政権下での移籍市場でのnet spend(純支出)が£50m(以降金額は£計算です。)であることが話題になりましたが、この方針を取っているのでまあそうだろうなと。ただnet spendが少ないということは、高く売れている証拠でもあるので、一概に悪いとは言えません。なおリバプールは売るのがとても上手いので、この時点ではスパーズよりも低い18mのnet spendです。

 

②移籍市場での活動をほぼ収支0に抑えているので、マッチデーや増加するリーグからの分配金の大半は設備投資に回っていると思われます。これまでトレーニング施設には70mプレイヤーズロッジには30m投資、残りはスタジアム関連に行ってるんでしょう。スタジアムは1biliion近くかかると言われていて銀行からのローンは637mなので残り全部と言わないまでも、結構自腹で出してるはず。(NFLとENICから少額の援助はあります。)

何故ここまでして設備投資をするかというと、スポーツ面と財政面の両方においての競争力を向上させられるからですよね。

スポーツ面で言えば、最先端のトレーニング施設が選手の成長に大きく貢献していると考えていいでしょう。それまでEL出場が関の山だったクラブが毎年CLに出てリーグでも優勝争いに参加しているので、スポーツ面での競争力は確実に増しています。

 

スポーツ面での競争力の向上は、スカッドの市場価値に反映されています。(下記参照)

www.standard.co.uk

 2017年なのでやや古いですが、スパーズのスカッドの市場価値は獲得時にかかった費用より452mも上昇しています。スカウトの功績とも言えますが、使いづらかったデンベレやシソコの覚醒、セインツで控えだったガッザニーガの成長等を考えると、最新の施設を活かしたチームポチェのコーチングが実っているのだと思います。またスパーズのユースアカデミーは他クラブと違い、本当にローカルなタレントを育てている(下記詳細)のですが、にもかかわらずウィンクスやスキップなどプレミアで通用する/しそうな選手を輩出しているのは、選手を成長させられる環境が整っているからですよね。

www.theguardian.com

スタジアムへの投資も、収入を多様化させて財政面での競争力をつけるためのプロジェクトです。借金返済で補強が出来ないんじゃないかと言われますが、放映権バブルのおかがで毎年収入が増加してる上、新スタジアムは結構な収入増をもたらしてくれるのでそこまで影響はないと思ってます。ただスタジアムが出来てもシティやPSGみたいになるわけではないので悪しからず。

 

③最後はマーケティング面。ヨーロッパは頭打ち、おそらくアフリカもユナイテッドレアルバルサ等の天下なので、新たな市場を見つける必要がありました。となると言語障壁がなく、市場の大きな北米がターゲットに。HPやアンダーアーマーとのコネを活かし、プレシーズンマッチ等も米国で頻繁に行っています。さらにフリーデル、デンプシー、イェドリン等の獲得もひと役買っています。NFL開催もマーケティングの一環ですね。これらの施策のおかげで、スパーズは米国屈指の人気クラブになっています。詳細は以下の記事で。アジアオセアニアは対北米戦略の応用です。

trendjackers.com

 

結びースパーズというクラブの行く先

今回はスポーツ面ではなく、あまり語られない経営面について書いてみよう、という試みでした。

色々考えたんですが、フットボールクラブって固定的資産としてのスタジアム等と流動的資産としての選手くらいしか投資先がないんですよね。

確かに「今」高い金払って良い選手を取れば勝てるかもしれない。でもスタジアムに投資して財政基盤を強固にし、トレーニング施設に投資して選手が成長できる環境を整えれば、クラブとしてより持続的に成長していけるんじゃないのか?というのがレヴィの仮説。明らかに短期ではなく長期志向です。レヴィは以前「こんな放映権バブルいつまでも続くわけがない」と言ってたので、放映権バブルという外部要因に頼らず、自前で稼げるクラブになろうというわけです。

  

10-20年単位の明確なビジョンを持ち、かつ実行力のある敏腕経営者レヴィこそスパーズ最大の武器です。サポーターがデブールとかファンハールとか叫んでいた中で、ポチェの能力を見抜いたのもレヴィ。彼が居ればスパーズは安泰だろうなというのが個人的な感想です。(スタジアムの工期に関しては楽観的過ぎた感はありますが。)

 

あとがき

スカウト網についても書こうと思ったが、情報量が少なくて断念。計量的な分析で、他のビッグクラブと被らないようにスカウトしてるというところかなと思っていたけどそうとも限らなさそう。トビー獲得のキーマンだったとされるマッキンゼーはスタッツ以外の部分でトビー獲得が決まったと言ってたし。最近スカウトする際に練習態度やメンタリティを重視してるので、計量分析の比重が落ちているのかもしれない。その辺りの方針の違いでポールミチェルと袂を分かった可能性もあるのかなーと考えていた。そして調べてるうちにLinkedinでミチェルの現在地がマンチェスターになってることに気付いた笑